先日の記事にてキャンプキンザー跡地開発に関する地元建設業者が作成した有志案を紹介し、それについて簡単な感想を書きました。その後、関係者と思われる方とTwitterでやりとりをしたり、案の詳細について説明されている動画などをみて、有志案について自分なりに理解が深まってきたので、今回はこの案のポイントをより詳細にまとめるとともに、より踏み込んでコメントをしてみたいと思います。
有志案はハイパーブロックによる大規模開発が前提となっており戸建住宅用地がない
Twitterで関係者と思われる方に確認した結果、有志案には戸建住宅用地がないことが分かりました。住宅は全て高層マンション化し、その分で空いたスペースに緑地を多く確保することを目指しているようです。
これについては私も色々と調べてみましたが、一つ一つの区画を大きく取ること(ハイパーブロック化)で住宅以外の商業施設やオフィスビル、公共施設なども大規模な開発ができるようになるほか、細かな路地が要らないので道幅を大きく取ることができ、交通渋滞の解消にもつながるようです。
なお、ハイパーブロック化による都市開発は最近流行りのようで、キャンプキンザーほど大規模ではないものの、国内でも都市部の区画の一部をハイパーブロック化する形で再開発する事例が複数みられています。
ハイパーブロック化によって高層の大規模開発ができるようになると、土地が生み出す収益が増えるので、土地を売却ないし賃貸して収益を得たい地主にとっては魅力的な案だと思います。
また、建ぺい率の制限で建物が建てられない敷地は公開空地という形で緑地などの公共スペースが提供されることとなりますので、それ以外の地主や一般市民・観光客にも恩恵があると考えられます。こうした意味で、私自身もハイパーブロックを軸とした都市開発の方向性自体は望ましいことだと考えています。
一部に戸建住宅用地があってもいいのではないかという提案
一方で、住宅エリア全てを高層化してしまい、戸建住宅用地を全く設けないという点については議論の余地があるのかなと考えています。
住宅は全て高層化してしまった方が街のコンセプトとしては分かりやすくなるとは思いますが、子や孫の住宅用地や自己用住宅として利用したいという地主(アンケートによると地主の3割弱)の理解が得られない可能性があるほか、戸建て志向の強い富裕層の居住を阻む要因となりかねません。
むしろ、跡地の一部が戸建住宅用地となれば、土地の売却・賃貸によって収益を得たい地主にとっては、自身の持つ土地の希少性が上がり収益アップが期待できるほか、富裕層の居住につながることで跡地内の商業施設等の売上増加なども期待できます。
また、戸建て住宅は赤瓦などで街並みを統一すれば、沖縄ならではの景観として、別途開発が予定されている「世界的リゾート」の資源の一つとして活用することも可能と考えられます。
因みに、福岡市のシーサイドももちというエリアでは、人工ビーチ沿いに広く区画を取る形でホテル、商業施設、高層マンション、公共施設、公園等が立ち並んでおり、それに隣接して戸建ての高級住宅街が設けられています。この住宅街は価格もかなり高いので、キンザー跡地にこれをそのまま再現するのは難しいと思いますが、ハイパーブロックによる高層住宅地区と戸建住宅地区を併存させることは十分現実的だと思いますし、そうしたからといって跡地全体の魅力が下がることはないと思います。
緑地が少ない?皆さんはどう思いますか?
有志案では、「浦添市案では緑地が少ない」ことを一番の理由として、緑地を広く取れる高層住宅を増やしたいとのことでした。確かに、緑あふれる現在のキンザーと比べれば少ないのは分かりますが、そこまで緑地は少ないのでしょうか。
浦添市による緑地案は上記の通りです。受け取り方は人それぞれだと思いますが、私は「それなりに緑地があるな」と思いました。これにホテル等が建設されれば、その分の空地が上乗せされますし、前述したハイパーブロックによる高層住宅化が仮に実現すれば、更に緑地は増えるでしょう。
特に、比較的海から遠い東側(現在の国道58号線側)のエリアは相対的に緑地が少ないですので、こうしたエリアを中心に、容積率を緩和して建物を高層化できるようにすれば、跡地の全域で緑地を潤沢に確保できそうです。また、こうすることで低層の戸建住宅からも高層のマンションからも広い範囲で海が臨めるというメリットが期待できます。
こうしたことを踏まえると、やはり個人的には「緑地を確保するために全ての住宅を高層化する必要はないのではないか」と考えてしまいます。
新58号線と広大な業務地区は必要か
有志案によると、現在の国道58号線の西に新58号線を敷設するとともに、その両側に浦添市案より広めの業務地区を設け、商業施設だけではなく国内外からビジネス企業等を多く呼び込むという計画のようです。
新58号線については私も細かい説明を聞いていませんが、「既に58号線を広げようとしてるのに更に広い道路が要るのか」「現在の58号線沿いで商売してる人は人の流れが変わって困らないか」「キンザー跡地の中でも新58号線の東側は、海から分断されて気の毒だな」と感じました。
これだけの業務地区を設けるには大きな幹線道路が必要なのでしょうし、新58号線の東側を既存の屋富祖市街地の再開発のための種地としたい、という意図もあるようですが、それなりに代償もありそうなので、議論が尽くされることが望まれます。
余談になりますが、業務地区に外から企業を呼び込むのは簡単ではありません。優れた住環境だけでなく、国内外各都市への優れたアクセス、行政による企業等へのサポート、地元大学等による人材教育なども重要です。また、沖縄県内の人口は限られていますし、全体として見れば労働者の収入も低く需要が限られるので、東京や大阪、福岡のように外資系の金融機関などを呼び込もうとするにも無理があります。IT企業やスタートアップ企業などは可能性があるかも知れませんがIT津梁パークもうまく行っていないような中で、どれだけ成果が見込めるでしょうか。
いずれにせよ、業務地区の規模については、どのような企業をどれくらいの時間軸で誘致するのか、何らかの特区を持ってくることができないか、といった議論を含めてかなり慎重に検討する必要がありますし、本当に外からビジネス企業を呼び込む前提で進めるのなら、県、国、政治家とも連携しながら本気で誘致を進めなければなりません。
まとめ
有志案はあくまで地元の建設業者が中心になって作られたものであり、浦添市が公式に認めているものではありません。ただし、市が関与している勉強会等でもこの案がたたき台として示されており、この案で示された要素が今後の浦添市案に反映されてくる可能性は十分にあります。
既存の浦添市案では戸建住宅エリアが多く設けられる計画となっていますが、有志案ではこれが全くありません。個人的には、「区画を大きく取って、高層マンション主体の住宅地を設ける」という有志案の方向性に違和感はないですが、それなりの数の地主が自己利用を希望している現状を踏まえると、戸建用地を全く設けないというのは無理があるかなと思いますし、上述の通り、戸建用地を設けることで見込めるメリットも相応にあると思います。
その他の論点についても色々意見を書いていますが、地主の方は、もし仮に有志案が自分の思っているものと違うと感じたら、今後行われるであろうアンケート等ではっきりと自身の意見を示し、議論に積極的に参加した方が良いと思われます。
また、浦添市は先日の組織改正で、キンザーの跡地開発を推進する「跡地未来課」という専担部署を設けています。私も先日連絡をとってみたのですが、既に担当者がおり、丁寧に意見を聞いてくれました。個別の地主の意向を浦添市がそのまま反映することはないでしょうが、今後のアンケート等を行う際には地主の意向に配慮した項目立て等をしてくれるかも知れません。
正直なところ、100坪もない小規模地主があれこれ言ったところで浦添市が今後作成する計画に何の影響もないかも知れませんが、後々になって「こんなはずじゃなかった」ということにならないよう情報収集、情報発信等していければと考えています。
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